業務効率化
内製開発
医療
ファストドクター × Retoolで実現した新規診療科の高速立ち上げと内製開発体制

背景
ファストドクターは、往診およびオンライン診療を中心に事業を展開する医療プラットフォーム企業です。医療の空白時間を埋めるサービスとして急成長しており、現在では約5,000名の医師が参画しています。生活者向け診療サービスに加え、医療機関支援や医療BPOなどにも取り組んでいます。
同社のオンライン事業本部では、24時間365日のオンライン診療サービスを基盤として、新しい診療科の立ち上げやサービス改善を継続的に進めています。近年は、急性症状への対応に加え、生活習慣病や心療内科など慢性疾患領域への診療科拡張にも取り組んでいました。
診療科によって患者ニーズやそれに伴い発生する実務上の課題が変わるため、共通の型をそのまま横展開できず、実運用で試しながら最適化していく必要がありました。その結果、新規診療科の立ち上げでは、診療科ごとに異なるKPI設計や業務オペレーションの構築が求められました。
そこで課題となったのが、予約導線や受付・処方・フォローの設計を含む業務オペレーションを、実運用の中で小さく試しKPIを見ながら素早く修正できる体制を整えることでした。
課題:新規診療科ごとに異なる業務設計
オンライン診療では、
・予約
・受付確認
・診察
・処方・書類作成
・請求
・フォロー
といった一連のプロセスが存在します。
しかし診療科によって、患者の利用目的や求められる体験が大きく異なります。例えば急性症状の診療では「できるだけ早く薬を受け取りたい」というニーズが強い一方、慢性疾患では「継続的に同じ医師に相談できること」や「通院負担を減らすこと」が重視されます。
そのため、どの工程がボトルネックになるかも診療科ごとに変わり、KPI設計や業務プロセスもそれぞれ最適化する必要がありました。
従来型のスクラッチ開発では、要件定義から実装まで数ヶ月を要し、仮説修正のスピードが追いつきませんでした。初期段階から本開発を行うため、検証コストが高くなるという構造的な問題もありました。

取り組み:Retoolを活用した三段階モデル
ファストドクターでは、新規事業の立ち上げを
・POC(概念実証)
・PMF(プロダクトマーケットフィット)
・コアプロダクト化
の3段階に分けています。
POC段階では、まず最小限の機能でツールを構築し、業務オペレーションの中で実際に使いながら仮説を検証します。PMF段階では、KPIの達成状況やユーザーの利用状況をもとに、事業として成立するかどうかを判断します。そして、継続すべきと判断されたもののみを、基幹システムとして本格開発していきます。
POC・PMF段階ではRetoolを活用して迅速にアプリケーションを構築する体制を整えました。これにより、業務オペレーションに即投入できるツールを数日〜1週間単位で構築し、KPIをもとに継続可否を判断する仕組みを実現しています。

Retool活用を支えたポイント
ファストドクターでは、Retoolを「画面を早く作るためのツール」というよりも、診療科ごとのオペレーションを検証し、改善していくための基盤として位置づけています。実際に高速でPDCAを回すうえでは、ツール導入そのものよりも、周辺の体制や考え方が重要でした。

まず、業務をEnd-to-Endで解像度高く捉えることです。予約から受付、診察、処方、請求、フォローまでを一連のプロセスとして理解し、現場の一次情報から「どこが詰まりやすいか」「どの指標が効くか」といった仮説を立てられる状態を作りました。
次に、検証設計と可視化の瞬発力です。必要な粒度でデータ化・可視化し、結果をすぐに振り返れることで、改善が“後追い”にならず、運用と同じ時間軸で進みます。
また、データを横断的に分析できる状態(データ基盤)も重要です。改善が進むほど施策が増えるため、個別最適ではなく、全体で効果を評価できる環境が求められます。
最後に、振り返りを徹底する文化です。検証結果をチームで共有し、改善に反映するサイクルが回ることで、Retoolで作った仕組みが“作って終わり”にならず、運用の中で育っていきます。
従来開発との比較
従来のスクラッチ開発とRetoolを活用した開発体制を比較すると、次のような違いがあります。
比較項目 | 従来型スクラッチ開発 | Retool活用モデル |
|---|---|---|
開発リードタイム | 数ヶ月 | 数日〜1週間 |
仮説修正 | 変更コストが高い | 即日修正可能 |
投資判断 | リリース後評価 | KPIリアルタイム判断 |
位置付け | 初期から本開発 | PMFまで検証用 |
Retoolは、単なる管理画面構築ツールではなく、仮説検証を前提とした業務設計ツールとして機能しています。
具体的な活用例
Retoolは、オンライン診療のオペレーション改善や新規診療科の立ち上げなど、さまざまな業務で活用されています。ここでは、その中から代表的な活用例を紹介します。
1. 新規診療科 案件管理ツール
新しい診療科を立ち上げる際には、LPからの問い合わせ管理や患者対応の進行管理など、複数の業務を横断して管理する必要があります。
この案件管理ツールは、事業推進担当者が1名で約3週間で構築しました。これにより、事務局の運用フローが整理され、運用コストを約40%改善しました。

2. 処方箋送付ツール
オンライン診療では、診察後に処方箋を薬局へ送付する業務が発生します。従来は手作業が多く、処理時間のばらつきが課題でした。
PdMを中心に2名で約1ヶ月でツールを構築し、処方箋送付のリードタイムを55%短縮しました。

3. 次回予約リマインド機能
慢性疾患の診療では、継続的な受診が重要になります。そのため、次回予約日のリマインド機能をRetoolで実装しました。
この機能は約2時間で構築され、無断キャンセルを約10%抑制しました。

組織への定着
現在、非エンジニア主導で構築されたRetoolアプリは152本、ワークフローは107本に達しています。月間実行数は4万回以上となり、日常業務の基盤として活用されています。
Retoolを活用することで、業務を理解している事業部門自身がツールを構築し、仮説検証を回せるようになりました。一方で、エンジニアは基幹システムの開発やアーキテクチャ設計に集中することができます。
その結果、新規施策の検証スピードを落とさずに、基幹システムの品質も維持できる体制が整いました。
学びと今後
一方で、コードの属人化や、基幹システムとの接続部分で運用負荷が高まる場面もありました。適用範囲の見極めと、エンジニアレビュー体制の整備が重要だと分かりました。
今後はRetoolの活用範囲を整理しながら、スピードと品質を両立しつつ、新規診療科の立ち上げや業務改善を短いサイクルで検証できる体制を継続的に磨いていきます。
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